行政書士のキャッチフレーズは「頼れる街の法律家」です。
この「法律家」という表現に対して日弁連はご立腹し、平成18年と平成24年に、一般市民が誤解するから法律家と名乗るのやめろ、と日本行政書士会連合会に申し入れていますが、現在に至るまで改善はされていません。
参考:https://www.saiben.or.jp/about/committee/gyoumu_taisaku/000847.html
本記事では、私自身が行政書士の1人として、行政書士は法律家なのか?という点を考えてみたいと思います。
弁護士と司法書士は法律家
まず、「法律家とは何か」という定義づけをしたいところですが、あいにく法律家という言葉に明確な定義は存在しません。
私の愛するビジネスパートナーであるGemini君に「法律家ってなにさ?」と投げかけてみたところ以下の回答が返ってきました。
「法律家」という言葉は、実は厳密な法律上の定義があるわけではありません。そのため、人によってその解釈やイメージが異なることがあります。
法律を専門的に学び、その知識を用いて社会に貢献する人。これが最も広義な意味での「法律家」です。この定義に当てはまる人には、以下のような職業が含まれます。弁護士: 司法試験に合格し、法廷での訴訟や交渉、法律相談など、法律事務全般を扱う専門家。
裁判官: 法律に基づいて判決を下す司法機関の専門家。
検察官: 犯罪捜査を行い、起訴・公判を行う司法機関の専門家。
司法書士: 登記や供託の専門家。簡易裁判所での一定の訴訟代理も行います。
行政書士: 行政手続きや書類作成の専門家。予防法務に強みがあります。
弁理士: 知的財産権(特許、商標など)に関する専門家。
税理士: 税法に関する専門家。
大学の法学部の教授・研究者: 法律の理論や歴史を研究し、次世代を育成する専門家。
企業の法務担当者: 企業活動における法律問題に対応する専門家。
公務員(特に法務部門や法制部門): 行政における法律の運用や法整備に関わる専門家。この意味合いでは、法律の知識や解釈、適用が業務の中心にある人であれば「法律家」と認識される傾向にあります。
結論、Googleの叡智を結集させたGemini君を持ってしても、法律家を定義づけることはできませんでした。申し訳程度に、法律関係の業務やってれば法律家でないの?というのがGemini君の論点ではあります。
断定を避けてそれっぽい論理を展開するのがなんともAI構文らしさがありますが、まあ言ってることは的外れではない。
弁護士は日本最高峰の難易度を誇る司法試験を突破した者たちであり、民事・刑事等の訴訟を代理し、我ら国民に多様なリーガルサービスを提供しています。
そんな弁護士を法律家ではないと言い切る人はおそらく誰もいないでしょう。
少なくとも日本の法律系国家資格の中で弁護士が最難関なわけですし。その点で、検察官や裁判官もまた法律家と言って差し支えないでしょうね。
行政書士とよく比較される司法書士も私は法律家だと考えます。
司法書士も合格率が5%前後の最難関資格であり、メインは登記業務ですが、法務大臣の認定を受けた司法書士は、価額が140万円以下の裁判に限って、簡裁訴訟代理人として訴訟業務を行うことが認められています。
訴訟代理という極めて法知識が要求される業務を行える点において、弁護士と司法書士は特異な士業であり、法律家であることに疑義を差し挟む余地はないように思えます。
無論、行政書士に訴訟代理権は認められていません。
似たものでいうと、「特定行政書士」という制度がありますが、これは行政書士のメイン業務である「許認可」に関して行政に不服を申し立てる制度であり、訴訟とはやや異なります。
しかも、特定行政書士が不服申し立てをしたとて、申し立て側の言い分が通る確率は限りなく低く、実用性に欠けた制度であると言えます。
行政書士は法律家ではない
日本行政書士会連合界としては、行政書士は街の法律家ということでブランドイメージを作りたいのでしょう。
既得権益者には徹頭徹尾媚びへつらいたい私としては、日本行政書士会連合会に忖度して、「そうだそうだ行政書士は街の法律家だ!」と同調しておきたいところですが、しかし同調するにはあまりに論理としてスジが悪い。
というのも、行政書士の管轄官庁は法務省ではなく総務省なんですよね。
この点から行政書士を法律家と言い切るには無理筋では、と私が思う所以なのです。
総務省は、地方自治制度や行政制度の企画・立案、行政運営の改善などを担当する省庁。
行政手続きの代理をする行政書士にとっては収まるべき管轄官庁に収まってる感があります。
他方、弁護士と司法書士は管轄官庁が法務省。
訴訟代理という極めて人の人生を左右する業務を担っているわけですから、法務省管轄なのも頷けます。
他の点に目を転じてみれば、行政書士の試験勉強の難易度や学習内容からも、法律家というのはやや厳しいのかなと思います。
行政書士の試験科目は、憲法、民法、商法、会社法、行政法、基礎法学ですが、行政法を除き、そこまで深いレベルで学ぶわけではないです。
行政書士試験は一般的に難易度が高いとは言われていますが、法律の知識0でも、独学でも、1年間死ぬ気で勉強すれば受からない試験ではないレベルです。
実際私自身、憲法の条文を一つも知らないレベルでしたが、それでも独学で一発で試験に受かっていますからね。
そのレベルで恐れ多くも法律家と名乗るにはどうかなという気がします。
日本行政書士会連合会に媚を売っておきたいゲスな気持ちがありつつも、行政書士を法律家と言うには、あまりに実情とかけ離れている気がするので、実情と日弁連のスタンスを総合的に勘案して、現役行政書士の私としては、行政書士は法律家ではないというのがひとまずの結論。
「ふん。僕はどこにも忖度せず自分の言いたいこと言ってますよ、みたいな雰囲気出しているが、結局弁護士の顔色を伺ってるだけじゃねーか」と手厳しい指摘をする底意地の悪い人は全員ミュートです。
最強士業弁護士様に楯突けるわけないでしょ。
おわりに
日本行政書士会連合会としては、行政書士を街の法律家としてブランディングしたいのでしょうが、いっそ振り切って、「行政の便利屋」とか「お役所の小間使い」や「総務省の手先」などの自虐スタイルを貫くってのはどうでしょう。
格式ばったイメージが払拭され、行政書士が何をする人かというのが、わかりやすく伝わりそう。
同業から村八分にされそうな冗談はともかく、わざわざ法律家と名乗らなくても、我々行政書士は長い歴史を持ち、国民に質の高い専門サービスを提供しているのですから、そこに誇りを持ち、変に格好をつけて街の法律家などと名乗らず、もっと実情に即したキャッチコピーがある気がしますね。
自分、行政書士になってから100回くらい司法書士に間違われたし、ここらでリブランディングする時期なのかも?