基本的に契約の解除は、相手に解除の意思表示をし解除をすることになります。
一方、民法は「無催告解除」の要件を定めており、この要件に合致すれば催告を要することなく契約を解除することができます。
今回はこの無催告解除について解説します。
契約解除権の種類
契約の解除とは、契約締結後において、一方当事者による契約を解除するという意思表示です。
解除がなされると、当事者は原状回復をし法律関係は清算されます。
この解除権には2種類あります。それが以下。
解除の種類
・約定解除権
契約当事者が契約締結時に、一定の事由を定めておき、その事由が生じたら契約を解除することです。
・法定解除権
法律で定められた発生原因によって与えられる契約解除権です。
多くの契約書は「約定解除権」を定めています。
無催告解除の要件
民法542条では無催告解除の要件を定めています。
無催告解除の要件は以下。
無催告解除の要件
① 債務の全部の履行が不能であるとき
② 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき
③ 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき
④ 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき
⑤ ①〜④に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。
この①〜⑤はいずれも、契約の目的が達成できない場合を想定しています。
例えば、①の「債務の全部の履行が不能であるとき」。
これを建物売買契約で説明すると、建物を引き渡す債務を背負っている売主(債務者)が、売主の過失により建物を滅失してしまった場合が考えられます。
目的物の建物が滅失してすでに存在してない状態は、「債務の全部の履行が不能であるとき」に該当します。
買主(債権者)は、目的物の建物がないのに、いちいち催告をして解除をするのは面倒ですし不毛でしょう。
そこで、こういう場合には、債権者はいちいち催告をすることなく、無催告で契約を解除するよう規定しているのです。
以上の民法542条で列挙しているのは、「法定解除権」なので、契約書に定めがなくても、無催告解除事由が生じたら、当然に解除権を行使することができます。
債権者に帰責事由があると解除権を行使できません
一方、債務の不履行について、債権者側に何らかの帰責事由あった場合は、債権者は解除権を行使できません。
民法では以下のように規定しています。
第543条【債権者の責めに帰すべき事由による場合】
債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、前二条の規定による契約の解除をすることができない。
これは当たり前の話で、債権者に非があるのに債権者に解除権を認めたら、契約の公平性を著しく欠くからです。
契約書に定めておくべき無催告解除事由
契約実務においては、民法542条で規定する事由以外でも無催告解除をしたい場合が考えられるので、それ以外の事由も無催告解除事由として定める場合があります。
そこで、契約書に定めておくべき無催告解除事由のサンプル条項を紹介します。
第○条(無催告解除)
甲又は乙は、相手方に次の各号の一に該当する事由が生じたときは、催告を要しないで本契約を解除することができる。
①本契約の条項に違反したとき
②破産手続き開始、民事再生手続き開始、会社更生手続き開始、特別生産の開始の申立てがあったとき
③支払不能若しくは支払停止又は手形若しくは小切手が不渡りとなったとき
④第三者により差押え、仮差押え、仮処分、強制執行又は競売の申立てがあったとき
⑤公租公課の滞納処分を受けたとき
⑥監督官庁より営業停止処分、その他許認可。登録等の取消し処分をうけたとき
⑦解散、会社分割、事業譲渡又は合併の決議がされたとき
相手の会社の状態の悪化(変化)、金銭的な不安等が生じたときに、無催告解除ができるよう規定しています。
このような定めを置いておくことは、契約者の身を守ることに繋がります。
一方、できるだけ契約を維持したい場合はあえて無催告解除事由を設けないという手もあります。
無催告解除事由を設けるべきかどうかは、ケースによって判断をしていくべきでしょう。
おわりに
無催告解除は、2020年4月の民法改正で要件が整理された条文です。
なので、企業法務担当者様は、2020年4月以前の契約書の雛形は一度見直した方がいいかもしれません。