業務委託契約と雇用契約は似て非なるものです。
ですが、一定の条件を満たすと、業務委託でも雇用とみなされ、紛争リスクが発生します。
本記事では業務委託契約が雇用契約とみなされないための注意点を解説します。
業務委託と雇用の法律的な相違
法律上、「業務委託」という言葉はなく、「請負」「委任」「準委任」という3つの種類が業務委託にあたります。
民法上での定義は以下のとおり。
民法第632条(請負)
請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
民法第643条(委任)
委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
民法第656条(準委任)
この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。
請負と委任の主な違いは、請負は仕事の完成が義務なのに対し、委任は仕事の完成義務を負いませんが、代わりに善管注意義務を負います。
もっとも、実務上では両者を区別するのは容易ではないので、ひとまず業務委託は「請負」と「委任」であることをご理解いただければ大丈夫です。
対して雇用。雇用契約は民法での定義は次のとおりです。
民法第623条(雇用)
雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。
労働者の定義については労働契約法2条のとおりです。
労働契約法第2条
この法律において「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。
2この法律において「使用者」とは、その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいう。
正直どうでしょうか。条文だけ読んでも業務委託と雇用の違いがわからないのではないでしょうか。
特に「請負」と「雇用」の説明は非常に似ています。実際、私も条文だけだと相違点がよくわかりません。
そこで裁判で争点になるのが「労働者性」の有無です。
労働者性の有無
仮に業務委託契約でも労働者性が強ければ、それは業務委託ではなく雇用契約と判断され、紛争の種になります。
いわゆる偽装請負というものですね。
ではその労働者性とはどこで判断されるのか。
旧労働省労働基準法研究会の報告書「労働基準法の「労働者」の判断基準について」が現在も有用な基準となっています。
参考: https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000xgbw-att/2r9852000000xgi8.pdf
要約すると、次の要素があると労働者性が強いと判断されます。
・ 使用者の指揮監督下にあるか
※通常業務を行う程度の指示等に止まる場合には、指揮監督を受けてるとはいえない
・ 欠勤した場合その分の報酬が控除され、いわゆる残業をした場合通常の報酬とは別の手当(残業代)が支給される場合
※例えばホスト店勤務などで、遅刻や欠勤したら罰金などの制度がある等
・ 採用委託等が正社員と同様の選考過程の場合
・ 源泉徴収している、労働保険の適用対象にしている、服務規律を適用している、退職金、福利厚生等を用意しているなど
※これらは全て労働者が享受できる制度のため
・ 仕事の依頼等への諾否の自由がない、拘束性がある、代替性がない(補助者等を使い業務を代わりにできない)、報酬が時間単位日払い
※シフトに入ることが半ば強制だったりすると、諾否の自由がないと判断されやすい
・ 専従性の程度。他の業務に従事することが事実上制限される、または時間的に困難な場合
※他の業務と掛け持ち禁止など
これらの要素が強ければ労働者性が補強され、業務委託ではなく雇用だと判断される可能性が上がります。
フリーランスが労働者認定された例
Amazonの商品の配送業務を委託されていた60代の男性が業務中に負傷。
委託されていた男性はあくまでフリーランスの立場でAmazonの業務を請け負っていたという建て付けですが、労基署は男性がAmazonの指揮下にあると判断し、労働者性を認め労災認定しました。
参考: アマゾン配達員を労災認定 個人事業主でも補償対象 実態は雇用、労基署判断
なぜ労災認定に至ったのか具体的に解説すると、Amazonのアプリで配達の数やルートが割り当てられており、事実上業務を断る自由がなかったとみられているからです。
これは旧労働省労働基準法研究会の報告書「労働基準法の「労働者」の判断基準について」の基準「仕事の依頼等への諾否の自由がない、拘束性がある」に該当するため、委託ではなく雇用契約と判断されたのだと思われます。
参考: 「アマゾン」配達中にけが ドライバー労災認定 全国初か
働き方の多様化が進む中、こうした偽装請負問題も噴出するでしょうから、業務委託契約を結ぶ際は重々注意してください。
おわりに
当行政書士事務所では業務委託契約書の作成を請け負っていますので、ご入用の際はご連絡ください。
余談ですが、行政書士に仕事を依頼するのは、法律行為の委任になるので、委任契約に該当します。
あとから、「これ雇用契約ですよ。つきましては残業代を請求いたします」などとは言わないので、安心してご依頼ください…!