継続的な取引の際によく利用される取引基本契約書。
本記事では取引基本契約書の概要と、取引基本契約書を作成する場合注意した方がいい点などを解説します。
取引基本契約書とは?
取引基本契約書は、継続して複数回の取引をする相手と、共通して適用される条件を定めた契約書です。
例えば商品の製造をするA社と商品の発注をするB社があったとします。
両者は継続的に商品の受注と発注を繰り返す関係性ですが、受発注の度に売買契約書を結ぶのは面倒でしょう。
そこで、これらの取引に共通するルールを定めておくことで、それらの手間を省くことができます。これが取引基本契約書です。
継続的に売買契約などをする場合、この取引基本契約書に基づき、発注額や数量品質等を個別に決めていきます。
取引基本契約書は法律に定められた契約書ではないので、どのような契約が取引基本契約書の対象となるかは明確化されていません。
ですが、おおむね売買契約が多いです。そのほかだと、継続的な取引が見込める請負契約や業務委託契約が対象になるでしょう。
取引基本契約で記載する事項
取引基本契約書を作成する場合、次の事項は取り決めておいた方がいいでしょう。
1. 取引基本契約の対象となる契約の範囲
2. 個別契約の成立に関する条件の定め
3. 商法509条について
4. 取引基本契約と個別契約の定めで異なる事項を定めた場合どちらを優先するか
一つずつ解説します。
取引基本契約の対象となる契約の範囲
取引基本契約はその性質上、事業者間で結ばれる契約です。
そうなった時に、双方全ての契約を取引基本契約で定めるかどうかが問題になります。
取引基本契約とは全く異なる契約を結びたい場合、全ての契約を取引基本契約で縛る内容にしてしまうと双方に不都合が生じます。
そこで、取引基本契約を適用する範囲を限定する場合、取引基本契約書には範囲を限定する旨を記載しておくべきでしょう。
例えば売買契約が主な取引の場合、「A商品の売買契約について取引基本契約を定める」と記載しておけば、A商品の売買にのみ取引基本契約が適用されます。
このように、円滑な契約関係を結ぶためにも、取引基本契約の適用範囲をあらかじめ限定しておくのは有用です。
個別契約成立の条件の定め
どのような場合に個別契約が成立するかを定めておきましょう。
ポピュラーな例だと、買主が料金や数量などを記載した注文書により申込みを行い、売主がこれを承諾した時点で個別契約が成立するなど。
契約の原則は申込みと承諾によるものなので、その原則に従った定めです。
商法509条について
取引基本契約を結ぶ場合、商法第509条を排除するかしないかを定めておいた方がいいでしょう。
商法509条とは商人同士の諾否通知義務を定めたものです。
商法第509条(契約の申込みを受けた者の諾否通知義務)
1. 商人が平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは、遅滞なく、契約の申込みに対する諾否の通知を発しなければならない。
2. 商人が前項の通知を発することを怠ったときは、その商人は、同項の契約の申込みを承諾したものとみなす。
契約は一方の申込みと一方の承諾によって成立するのが原則です。
他方、商法の原則だと、平常取引する商人同士の場合は、一方が申込みに対して承諾の通知を発しない場合、その契約は承諾したものとみなされます。
取引基本契約を結ぶ場合、双方は商人に該当する事業者なので(自営業は商人とみなされる)、商法509条が適用されます。
片方が希望しない場合でも諾否の通知を発しないと、契約が成立してしまうため、不都合であれば商509条を排除する条項を設けておくべきでしょう。
取引基本契約と個別契約の定めで異なる事項を定めた場合どちらを優先するか
取引基本契約を定めておけば、注文書を送付するだけで取引が成立する簡便さがある一方、取引基本契約と個別契約で異なる事項を定めたい場合もあるでしょう。
その場合、取引基本契約と個別契約の定めどちらを優先するかという問題が発生します。
より取引を円滑にするためには、次の事項を記載しておくとよいでしょう。
個別契約において、本契約(取引基本契約)と異なる定めたときは、個別契約の定めが優先して適用される。
個別契約の定めを優先させる条項を設けておくことで、原則は取引基本契約の定めを重視し、状況によっては異なる定めを設定する自由さが確保されます。
取引基本契約書に最低限盛り込むべき条項
取引基本契約書に最低限盛り込むべき条項を下記になるかと思います(売買契約の場合を想定)。
・ 検査・検収
・ 代金の支払い
・ 所有権の移転
・ 所有権移転の時期
・ 期限の利益の喪失
・ 契約解除
一つずつ解説します。
検査・検収
売買契約の場合、相手方から送付された商品を検査・検収する必要があります。
商品はどのように引き渡すか、検査はいつまでに行うか、などを定めます。
代金の支払い
代金の支払い方法や、支払い時期について明記します。
また、期日までに支払いが実行されない場合の遅延損害金も設定しておいた方がいいでしょう。
所有権移転の時期
民法の原則だと、商品の所有権は契約が成立した時点で移転することになっています。
しかし、これだとまだ商品の引渡しも検査も済んでいないので、実務上デメリットが生じる可能性があります。
そこで、検査合格時に所有権は移転する等の定めをおいておくのがいいでしょう。
期限の利益の喪失
期限の利益とは、契約上の債務について、一定の期限が設けられることによって債務者が受ける利益のことです。
わかりやすくいうと、お金を借りた人は、期日までにお金を返さなければいけませんが、逆に言えば期日まではお金を返す必要がないということになります。
この返済までの猶予が期限の利益ということです。
多くの契約書では、一定の条件が発生した場合この期限の利益を喪失させる条項を設けています。
一般的には、相手が契約の条項に違反したとき、相手の資産状況が悪化したとき、信頼関係を維持できない重大な背信行為があったとき、などに期限の利益を喪失させる場合が多いです。
契約解除
取引基本契約に限らず、ほとんどの契約では解約条件を設定します。
解除をして相手に損害が発生した場合の損害賠償についても定めておいた方がいいでしょう。
個別契約で記載する事項
売買契約においては、個別契約に最低限記載しておくべき事項は以下でしょう。
・商品の詳細
・商品の引渡し時期
・数量
・代金
・納入場所
・取引基本契約と異なる定めを置く場合その事項
より仔細に設定するなら、納入期日や、検査方法なども記載するのもありです。
おわりに
本記事では取引基本契約について、売買契約を例に説明しましたが、業務委託契約でも取引基本契約は適用できます。
当事務所では取引基本契約書の作成も承っていますので、気軽にご相談ください。