Webライターと業務委託契約をするとき、ちゃんと業務委託契約書は締結していますでしょうか?
本記事では契約書作成専門の行政書士が、Webライターの業務委託契約書の作成方法や注意点を解説します。
Webライター業務委託契約書で定めるべき条項
Webライター業務委託契約書で定めるべき条項は以下でしょう。
・ 業務内容(どういう業務なのか)
・ 検収
・ 委託料
・ 報告義務
・ 秘密保持
・ 有効期間
・ 契約解除
・ 損害賠償
・ 著作権
・ 不可抗力免責
・ 再委託の可否
一つずつ解説します。
業務内容
業務委託契約では業務内容を定める必要があります。
でないとなんの業務委託なのか明確でなくなってしまいますからね。
ポイントはできるだけ具体的に業務内容を特定すること。
具体的な記載がないと後から、「○○は契約書に明記されてないのでできません」と受託者(ライター)に業務を一部拒否されてしまうリスクがあります。
以下は条項例。
○条 業務内容
委託者は、受託者に対して、以下の記事執筆業務(以下「本件業務」という)を委託する。
(1) 委託者が運営するWebサイト「○○メディア」に掲載する原稿の作成
(2) 原稿に使用する写真の撮影や、イラスト(フリー素材等の利用可)等の作成
(3) 原稿作成に付随する、取材やインタビュー等の業務
(4) これらに付随する一切の業務
通常考えられる、記事執筆に伴う業務を列挙したサンプル条項です。
上記はあくまで簡単な条項例ですが、納品方法や記事本数、納期なども細かく記載しておきましょう。
その他にも依頼したいことがある場合や、都度違う納期などを設定する場合は、取引基本契約を締結しておき、案件ごとに個別契約を結ぶというやり方もあります。
検収
ライターが原稿を納品し、どのような状態になったら仕事の完成とみなすかを定義しておいた方がいいです。
でないと、原稿を納品したものの、発注者が原稿の出来に納得せず、何度も修正を要求してきたら、双方にストレスがたまるでしょう。
以下条項例。
第○条 検収
1. 委託者は、受託者から納品された本件成果物を受領後、7日以内に、本件成果物の確認その他必要な検査を実施し、その可否を受託者に通知する。
2. 前項の検査に合格した場合、検査完了日をもって、本件成果物の検収が完了したものとする。
3. 前項の検査に合格しない場合、委託者は受託者に対して不合格になった具体的な理由を示したうえで、本件成果物の修正を求めるものとし、以後、受託者が検査に合格するまで同様とする。
4. 第○条に規定する納期まで本件成果物が検収されない場合、受託者は委託者に生じた損害を賠償する責任を負う。
委託料(報酬)
委託料に関する取り決め。
当然ですがお金の話は一番の揉める原因なので、しっかり契約書に明記しておきたいところ。
要注意したいのは、委託料を振り込みで払う場合、振り込み手数料はどちらが負担することになるのかは必ず明記しておきましょう。
たかだか振り込み手数料如きと思うかもしれませんが、しっかり明記してないと揉める原因になります。
条項例は以下。
第○条 報酬
1. 委託者は、受託者に対して、本件業務の対価として、1記事あたり〇〇円(消費税別)を支払う
2. 本件業務の内容(文字数が多い、取材必須など)に応じて報酬は変動する。前項に定める報酬に変更がある場合は、委託者受託者協議の上定める。
委託者は、前項に定める報酬を納品後翌月末日までに、受託者の指定する銀行口座に振り込む方法によって支払う。振込手数料は委託者の負担とする。
報告義務
委託者としては、受託者の業務遂行状況を逐一確認しておきたい。
Webライターの業務委託契約であれば、相手がちゃんと締切を守れるかも不安でしょう。
なので、都度受託者から業務の進捗を報告してもらうために報告を義務付ける条項です。
実際、民法でも委任では報告が義務付けられています。
民法第645条
受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。
Webライターの業務委託契約は概ね請負契約に該当するので、民法645条の報告義務は負いません。
なので、報告を義務付ける条項を設けておくべきです。
以下条項例。
第○条 報告義務
受託者は、本件業務の履行状況に関して、委託者から請求があったときには、その状況を直ちに報告しなければならない。
秘密保持
秘密保持条項は、業務委託契約にかかわらず、多くの契約書に用いられている一般条項です。
秘密保持条項とは、文字通り、契約内容を秘密にすること、他に漏らさないことを規定する条項です。
秘密保持条項を設けておかないと、業務上で知り得た秘密を外部に洩らされてしまい、想定外の不利益を被る可能性があります。
条項ではなく、念には念を入れて、「秘密保持契約書」を新たに締結する事業者さんもいます。
(秘密保持契約書は一般的にはNDAと呼ばれる)
秘密保持はそれだけ大事なので必ず入れておきましょう。
以下が条項例。
第○条 秘密保持
1. 甲及び乙は、本契約の遂行により知り得た業務上の情報を、相手方の事前の書面による承諾なく第三者に開示又は漏洩してはならず、本契約の遂行のためにのみ使用するものとし、他の目的には使用してはならない。ただし、弁護士、公認会計士又は税理士等法律に基づき守秘義務を負うものに対して当該情報を開示することが必要であると合理的に判断される場合には、本項条文と同内容の義務を負わせることを条件として、自己の責任において必要最小限の範囲において当該情報をそれらの者に対して開示することができる。また、法令に基づき行政機関及び裁判所から当該情報の開示を求められた場合においても、自己の責任において必要最小限度の範囲に限って開示することができる。
2. 前項の規定は、次のいずれかに該当する情報については、適用しない
(1) 相手方から開示を受けたとき既に自己が保有していた情報
(2) 相手方から開示を受けたとき既に公知となっている情報
(3) 相手方から開示を受けた後に自己の責めによらず公知となった情報
(4) 正当な権限を有する第三者から適法に取得した情報
ネット上にも秘密保持のサンプル条項がたくさん転がっていますが、概ね上記と似たような内容かと思います。
一律に全ての情報を秘密にするのではなく、一定の場合には開示を認める規定にしておいた方が、お互いにとって実務上有益かと思います。
有効期間
契約の有効期間を定める条項は、ほぼ全ての業務委託契約で設定されている条項でしょう。
ポイントは契約を自動更新する設定にするかどうか。
私が作った条項例では自動更新条項にしています。
以下条項例。
第○条 有効期間
本契約の有効期間は、令和●年●月●日から令和●年●月●日までとする。ただし、期間満了日の1ヶ月前までにいずれの当事者からも更新拒絶する旨の意思表示がない場合、同一内容でさらに1年間更新されるものとし、以後も同様とする。
契約解除
契約解除をする際の条件を決める条項です。
契約解除の条項を設けておかないと解除したい時に解除できず、ビジネスの実務上デメリットが大きいです。
そのため、Webライターの業務委託契約に限らず、多くの業務委託契約に中途解除条項が設けられています。
以下条項例。
第○条 解除
1. 甲及び乙は、相手方に1ヶ月前までに書面をもって通知することにより、本契約を解除することができる。なお、甲は、解除により乙に損害が生じた場合でも、その賠償責任を負わない。
2. 甲及び乙は、相手方が次の各号のいずれかに該当したときは、催告その他の手続きを要しないで、直ちに本契約を解除することができる。
(1) 本契約に定められた条項に違反したとき
(2) 本契約に定められた債務の履行をしないとき、又は債務の履行が困難であることが明らかなとき
(3) 相手方に対する詐術その他背信的行為があったとき
一ヶ月前に書面で通知すれば契約解除できること、そして相手の条項違反や支払い能力の悪化、背信的行為があったときも解除できるように規定しています。
ちなみにもし解除条項を設けなかった場合、民法の規定によることになります。
相手が債務を履行しない場合(ライターが納期までに原稿を納品しないなど)、相当の期間を定めて催告をし、その期間内に履行がないときに、契約の解除をすることができます(民法541条)。
一方、催告によらない解除もあり、次の条件に当てはまるときは、催告を要せず直ちに契約の解除ができます(民法542条)。
・ 債務の全部の履行が不能であるとき
・ 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき
・ 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき
・ 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき
・ 債務者がその債務の履行をせず、債権者が催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき
契約書に中途解除条項を設けなかったら、民法の規定で処理されることは覚えておきましょう。
損害賠償
損害が発生した時の取り決めが損害賠償条項。
ほとんどの契約書に設定されている条項です。
以下条項例。
第○条 損害賠償
甲及び乙は、本契約に違反することにより、相手方に損害を与えたときは、相手方に対して、その損害のすべて(弁護士費用を含む)を賠償しなければならない。
極めて一般的な損害賠償条項ですが、これだと損害額に上限がないので、賠償額が想定以上に膨れ上がる可能性、あるいは相手方の悪意により不当に高い損害賠償を請求される可能性があります。
これを防ぐために損害額に上限を設ける内容に変えるのもありです。
以下条項例。
第○条 損害賠償
甲及び乙は、本契約に違反することにより、相手方に損害を与えたときは、相手方に対して、本契約の委託料を上限に、損害(弁護士費用を含む)を賠償しなければならない。
委託料を上限に損害額を限定すれば、お互いに安心でしょう。
もっとも、委託料を超える損害が発生する可能性が高い契約であるならば、不利になるので、その場合は「金●●円を上限に」という形で想定される損害額で上限を設定するという方法もあります。
著作権
Webライター業務委託契約でよく論点となるのが、「納品した記事の著作権はどうなるの?」ということ。
特に何も取り決めがなければ、記事を書いたのがライターなら、その記事の著作権者はライターということになります。
しかしそうなると、発注者側が納品された記事を自由に使えない、あるいはライターが、「その記事やっぱり消してください」と言われてしまい、想定外の損害が発生する可能性があります。
そこで、記事の著作権を納入後、発注者に譲渡する規定を設ける条項が検討されます。
以下条項例。
第○条 著作権
受託者が委託者に納入した本件成果物に関する著作権は、○条に定める検収完了と同時に、受託者から委託者に譲渡されたものとする。
もしライター側が著作権の譲渡に難色を示した場合、譲渡ではなく、著作権の利用許諾という形の条項にするという手もあります。
不可抗力免責
到底予測できない不測の事態が発生した場合、当事者の責任が免責されるのが不可抗力免責です。
大地震が発生したのに、「締切守ってください!守れない場合は損害賠償しますよ!」と言われても、締切どころではありません。
そうしたトラブルを防ぐために不可抗力免責は多くの契約書で設けられている条項です。
以下条項例。
第○条 不可抗力免責
天変地異、戦争・内乱・暴動、法令の制定・改廃、公権力による命令・処分、ストライキ等の争議行為、その他不可抗力による本契約に基づく債務の履行遅滞又は履行不能が生じた場合は、いずれの当事者もその責任を負わない。ただし、金銭債務を除く。
再委託の可否
Webライターは請負契約の性質が強いので、請負契約は再委託が自由です。
つまり、発注者はライターAに記事の執筆を依頼したのに、ライターAは依頼された記事執筆をライターBに再委託するのも自由ということです。
発注者からすればライターAの能力を信用して記事の執筆を依頼したのに、他の方に執筆されてしまっては困ります。
そこで、この再委託に制限をかける条項を設定するのです。
以下条項例。
第○条 再委託
受託者は、本件業務の全部又は一部を第三者に委託することができない。ただし、委託者及び受託者が協議のうえ委託者が書面による承諾をした場合には、この限りではない。
再委託を原則禁止にしておき、発注者が書面で承諾した場合のみ再委託を認める内容です。
おわりに
私自身某Webメディアでライターとして連載をもっていたことがありますが、そのときの契約はなんと口頭でした。
契約自体は口頭でも成立しますが、口頭だと所詮口約束にすぎないので、言った言わないのトラブルになりやすく、やはりしっかり契約書をまいた方が双方のためでしょう。
当行政書士事務所は契約書作成を請け負っていますので、何かご相談がありましたらお気軽にお問合せください。