フリー素材のサイト等で商用利用を制限していることがままあります。
しかし、実は「商用利用」という言葉は法律用語ではないので、どこまでが商用利用で、どこまでが非商用利用なのかは明確ではありません。

というわけで本記事では、行政書士の私が商用利用について独自の見解を入れつつ解説します。

商用利用かどうかはサービス提供者次第

結論、法律上「商用利用」の定義がない以上、商用利用かどうかは、サービス提供者の定義次第ということになります。

例えばフリーイラストを提供する「いらすとや」。
いらすとやは「よくあるご質問」において商用利用を次のように制限しています。

商用利用をすることができますか?

書籍・チラシ・パンフレット・ウェブ・テレビ・パッケージ・電子書籍・動画・ソフトウェア・パワーポイントでのプレゼン・卒業アルバム・名刺など、媒体を問わず1つの制作物につき20点(重複はまとめて1点)まで商用利用をすることができます。

ただしイラスト自体をコンテンツにせず、あくまでデザインの一部としてお使い下さい。素材配布目的の雑誌やサイトなどで、イラストをそのまま二次配布したり、販売することはできません。またイラストやテンプレートをそのまま商品として配布・販売することもできません。画像編集アプリの素材として収録することもできません。
参考: https://www.irasutoya.com/p/faq.html

いらすとやのイラストは、商用利用の場合20点まで使うことができると規定されています。
ではいらすとやにおいて、商用利用の定義はなんなのか。その答えが以下。

自社で作成するプレゼンのスライドや商品のポップなど制作物がその場限りの利用で直接利益を生むものでなければ、仕事で使う場合でも非商用と考えていただいて構いません。
また、自社で作成され、社内でのみ利用され、外部へ公開されないポスターやマニュアルなどについても非商用と考えていただいて構いません。
ただし無料配布するものであっても、外部から制作費を貰って作成する場合は商用利用となります。

幼稚園のバザーや学生主体の文化祭など、ごく限られた期間と場所で限られた方たちへ向けた小規模な活動については非商用と考えていただいて構いません。
参考: https://www.irasutoya.com/p/faq.html

社内のみで使うポスターやマニュアルの場合は非商用。その場限りの利用で直接利益を生むものでなければこれも非商用。
他方、無料配布でも、外部から製作費を貰い作成する場合は商用利用と定義しています。

これがいらすとやが定義する「商用利用」ですが、サービス提供者が変われば商用利用の定義もまた変わるのです。

商法が定義する「商行為」

繰り返しますが、商用利用は法律用語ではないため、何が商用利用になるかの判断は難しいです。
そこで商法に答えを求めてみると、商法には商用利用に近い概念である、「商行為」が定義されています。

この商法が定義する商行為から商用利用の定義が導き出せるかもしれません。
商法では、絶対的商行為営業的商行為、があります。
つまり、ここに該当する行為は商行為=商用利用という解釈が成り立つのでは、といえるかもしれないです。

絶対的商行為

投機購買・実行売却利益を得る目的で動産、不動産、有価証券等を取得、もしくは譲渡すること
投機売却・実行購買売却する契約を結んで、その売却予定価格よりも低い値段で物品を仕入れてくること(高く売ったあとに安く買う)
取引所においてする取引株式などの金融商品を取引所で取引すること
商業証券に関する行為振出し(小切手の発行)・裏書(証券譲渡)・保証などの証券上の行為
商法第501条

営業的商行為

投機貸借及びその実行行為賃貸する意思をもってする動産若しくは不動産の有償取得若しくは賃借又はその取得し若しくは賃借したものの賃貸を目的とする行為
他人のためにする製造又は加工に関する行為材料に労力を加える行為を有償で引き受けること
電気又はガスの供給に関する行為電気又はガスの供給に関する行為・取引
運送に関する行為物・人を移動し運送することを引き受ける行為
作業又は労務の請負建物等の建設、労働者の供給を請け負う行為
出版、印刷又は撮影に関する行為本などを印刷して販売、又は撮影を引き受ける行為
客の来集を目的とする場屋における取引客に一定の設備を利用させることを目的とする取引
両替その他の銀行取引両替その他の銀行取引
保険有償で保険を引き受ける行為
寄託の引き受け他人のために物の保管を引き受ける行為
仲立ち又は取次ぎに関する行為他人間の法律行為の媒介を引き受けることや、自己の名で他人の計算において法律行為を引き受けること
商行為の代理の引受け本人にとっての商行為の代理を引き受けること
信託の引受け委託者から預かった財産の管理・運用・処分を引き受ける行為
商法第502条

しかし商法503条が・・・

他方、商用利用に商法の概念を持ち出すと、商法503条がネックになります。

第503条(付属的商行為)
一 商人がその営業のためにする行為は、商行為とする。
二 商人の行為は、その営業のためにするものと推定する。

商人の行為はその営業のためにするものと推定する、ということは、商人の行為は全て営業とみなされる可能性があります。
つまり、商人がいらすとやを使う場合、それは営業のためにすると推定され、商用利用と判断されてもおかしくありません。

そうなると、商用利用かどうかの判定は、その行為ではなく、状態(商人であること)であることになります。

なので、商法の概念を持ち込むと少しややこしいかもしれません。

営利目的=商用利用?

他の識者は商行為についてどういう見解なのだろうと思ったので、調べてみると、多くが営利目的=商用利用という推論を立ててました。
社会通念で考えたら、営利を目的としているなら、それは商用で利用しているだろうというのは、妥当な筋道の立て方だと思います。

ですが、最終的に商用利用かどうかは裁判で決するので、営利目的だからといって必ずしも商用利用になるとは限らないことに注意が必要でしょう。

ところが、indeedさんは勇ましくも営利目的=商用利用と断言していました。

商用利用とは、金銭的利益を得ることを目的として、特定の商品やツール、知的財産を使用することを指す法律用語です。
引用元: 商用利用とは?

さらには、「商用利用は法律用語です」とまで言ってしまっています。
一応法律を仕事にしている行政書士の立場で言わせてもらうと、商用利用は法律用語ではありません。

法律用語じゃないからこそ多くの人が、商用利用と非商用利用の境界線に四苦八苦しているのです。
indeedさんにケンカを売るわけではないですが、これだと多くの訪問者が勘違いしてしまうので、記事を訂正した方がいいかと思います。

ともかく、営利目的=商用利用という論理は、一定の説得力がありますが、確定的な解釈ではないことにご注意ください。

契約書や利用規約を作る場合「商用利用」の定義はしっかりしよう

契約書や利用規約を作成するに際して、商用利用を一定程度制限する場合は、何が商用利用かをしっかりと定義しておくべきです。
でないと商用利用の解釈で揉めて無用なトラブルを生み出すことになります。

冒頭の結論に戻りますが、結局商用利用かどうかはサービス提供者側の定義次第なのです。