不動産や物の売買契約などで、所有権を移転する時に「動産を引渡す」という文言を使うことがあります。
この「引渡し」には4つの種類があります。
この引渡しの種類について行政書士の私が解説します。
①現物の引渡し
現物の引渡しとは民法182条1項に次のように規定されています。
182条(現物の引渡し及び簡易の引渡し)
占有権の譲渡は、占有物の引渡しによってする。
占有権とは物を支配する権利であり、すなわち現物の引渡しとはこの占有物を相手に移転することを意味します。
具体例を出すと、売主Aが本を120円で販売し、買主Bがその本を120円で買い、AがBに本を譲渡することで、本がAからBに移ります。
これが現実の引渡しです。
②簡易の引き渡し
簡易の引渡しとは民法182条2項に次のように規定されています。
182条(現物の引渡し及び簡易の引渡し)
譲受人又はその代理人が現に占有物を所持する場合には、占有権の譲渡は、当事者の意思表示のみによってすることができる。
条文だと少しわかりにくいので具体例で説明します。
Aが自分の本をBに貸したとします。
その後、Bがとても本を気に入ってしまったので、Aがその本をBに、「その貸した本君にあげるよ」と意思表示すると、簡易の引渡しが成立したことになります。
つまり、譲受人が既に目的物を所持している(Bが本を所持している)ことに加え、その目的物を譲渡する意思表示(Aが本をあげると言った)ことで、引渡しが成立します。
③占有改定
占有改定は民法で次のように規定されています。
第183条(占有改定)
代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは、本人は、これによって占有権を取得する。
これも少し複雑なので例で説明します。
売主Aが買主Bに対して本を販売したとします。
通常、この場合本の占有権が買主であるBに移りますが、Bは今すぐには本を読まないので、しばらくこの本をAに預かってほしいと言い、AがBのために占有すると占有改定が成立します。
すなわち、本自体はBの物になったわけですが、Aが代わりに代理で本を占有しているということです。
④指図による占有移転
最後は指図による占有移転。
民法では次のように説明されています。
第184条(指図による占有移転)
代理人によって占有をする場合において、本人がその代理人に対して以後第三者のためにその物を占有することを命じ、その第三者がこれを承諾したときは、その第三者は、占有権を取得する。
指図の占有移転は登場人物が3人になるのでこれまた複雑です。
例で説明すると、賃貸人Aが賃借人Bに建物を貸すとします。
そして、Aが第三者Cに建物を売却したとします。
この場合、AはCに建物の占有を移転する義務を負うので、AC間で合意し、建物の占有権をCに移転します。その際、AはBに対して、以後Cのために建物を占有すべき旨を命じBがこれに承諾すると、指図による占有移転が成立します。
重要なのは、承諾するのが第三者であること。占有代理人(この場合賃借人B)の承諾は必要ありません。
所有権と占有権の違い
4つの引渡しについてはここまで。
契約形態によって以上の4つの引渡しを使い分けてみてください。
余談ですが「所有権」と「占有権」は意味が違います。
所有権とは、文字どおりその物を所有している人。
占有権とは、その物を現実に支配している人。
もう少しわかりやすく説明すると、所有権はその物を好きに利用する権利で、一方専有権は一定の条件の下にその物を使用することができる権利です。
例えば、賃貸人Aの建物を賃借人Bに貸してる場合、この建物の所有権はAでなので、この建物を誰に売ろうがAの勝手ということです。
他方、Bは建物を貸してもらっているので占有権を有しており、この建物を利用することをできます。
ですが、所有権はあくまでAにあるので、この建物をBが勝手に売ったりすることはできません。
これが所有権と占有権の違いです。なんとなくイメージできましたでしょうか?