多様な働き方が進む中、活用されているのが業務委託契約です。
今回は業務委託契約書を作成する場合、関係してくる代表的な法令について行政書士の私が解説します。
民法
民法は業務委託契約のみならず、多くの契約書の根幹ともいえる法令です。
例えば民法90条の条文は公序良俗について規定しています。
第90条(公序良俗)
公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
上記の条文の通り、公序良俗に反する契約は無効となります。
例を出すと、キャバクラ店と従業員の契約で、お店のキャストと私的交際をしたら違約金として200万円を払うという契約がありました。
これは公序良俗に反し無効です。
なぜなら交際は個人の自由であり、それを制限するのみならず200万円という法外な違約金を規定するなど、公序良俗に反すると言わざるを得ないからです。
参考: https://www.bengo4.com/c_5/n_15350/
契約は契約自由の原則があるので、基本的には契約書に何を書いても構わないですが、だからといって何を書いても法律上認められるとは限らないのです。
また、民法632条〜656条は業務委託契約にあたる、「請負」と「委任」が規定されているので、業務委託契約の根幹はこの条文で規定されています。なので、正しい業務委託契約書を作成するには、これらの条文を理解していないといけません。
このように、業務委託契約には民法の知識は欠かせないのです。
商法
業務委託契約を締結する一方が会社(法人)である場合、商法が適用されます。
最低限理解しておくのは商行為総則が規定されている商法501条〜521条。
例えば民法では受任者は特約を付けなければ報酬を請求することができず、無報酬が原則となっています(民法648条1項)。
一方、商法は商人同士の取引を規定しているため、当然に相当な報酬を請求できるとされています(商法512条)。
また、民法において代理権は本人の死亡によって消滅しますが(民法111条1項)、商法では代理権は本人が死亡しても代理権は消滅しません(商法506条)。
このように、商法は民法との相違が多々ありますのでご注意ください。
さらに、運送業、寄託に関する規定、倉庫営業に関する規定も商法で定められています。
したがって、これらの契約を結ぶ場合も必ず条文を確認しておくべきでしょう。
下請法
下請法は、規模の小さい下請事業者を守るための法令で、法令の性質上業務委託契約に大きく関係してきます。
下請法の適用の対象となる取引は以下の4つ。
1. 製造委託
2. 修理委託
3. 情報成果物委託
4. 役務提供委託
親事業者と下請事業者の分類は資本金の額で決まります。以下参照。
つまり、取引内容と資本金の額によって下請法の適用があるということです。
そして親事業者は4つの義務と、11の禁止事項があります。
以下、表にしてまとめました。
義務 | 概要 |
書面交付義務 | 親事業者が下請事業者に製造委託する場合、発注に際して必要事項を記載した書面を交付しなければならない。 |
書類の作成・保存義務 | 親事業者が下請け事業者に製造委託する場合、必要事項を記載した書類を作成し、2年間保存しなければならない。 |
下請代金の支払い期日を定める義務 | 親事業者が下請事業者の給付の内容について検査するかどうかを問わず、親事業者は60日以内に支払いをしなければならない。 |
遅延利息の支払義務 | 親事業者が支払い期日までに支払をしなかった場合、その日数に応じて遅延利息を支払わなければならない。 |
禁止事項 | 概要 |
受領拒否 | 下請事業者に責任がないのに商品の受領を拒否することの禁止。 |
下請代金の支払遅延 | 親事業者が物品等を受領した日から起算して60日以内に下請代金を払わないことの禁止。 |
下請代金の減額 | 元より決定している下請代金を、下請事業者の責に帰する事由がないのに減額することの禁止。 |
返品 | 親事業者が受領した物品に明らかな瑕疵があるわけでもないのに返品することの禁止。 |
買いたたき | 親事業者が発注する際に、通常の相場からかけ離れた低廉な下請代金を定めることの禁止。 |
購入・利用強制 | 正当な理由がないのに、親事業者が下請事業者に物品や役務を強制的に利用・購入させることの禁止。 |
報復措置 | 下請事業者が親事業者の下請法違反を公正取引委員会や中小企業庁に知らせたことへの報復措置として、取引数量を減じたり、取引停止、そのほか不利益な扱いをすることの禁止。 |
有償支給原材料等の対価の早期決済 | 下請事業者の責に帰すべき事由がないのに、有償で支給した物品、原材料等を、下請代金の支払い期日より早い時期に、当該原材料等の対価を下請事業者に支払わせたり下請代金から相殺したりすることの禁止。 |
割引困難な手形の交付 | 一般の金融機関で割り引くことが困難な手形を交付することの禁止。 |
不当な経済上の利益の提供要請 | 親事業者が下請事業者に対して、自己のために金銭、労務等を提供させることの禁止。 |
不当な給付内容の変更及び不当なやり直し | 下請事業者の責に帰する事由がないのに、不当に発注の取り消し、発注変更、または受領後にやり直しさせることの禁止 |
業務委託契約を締結する場合、上記で挙げた下請法に違反してないか確認しながら契約書を作成しましょう。
おわりに
以上の3つの法令以外でも、独占禁止法、建設業法、倉庫業法、個人情報保護法、知的財産法、印紙税法、などが関係してきます。
業務委託契約はとても汎用性の高い契約である反面、多くの法律が関係してくるので、ネット上に転がっている業務委託契約書の雛形をそのまま使用するのは危険です。
当事務所は法的に有効な業務委託契約書を作成できるので、必要でしたらぜひお問合せください。