契約書にはよく、「期限の利益喪失」条項が設けられており、業務委託契約書にも活用されて使われています。
本記事では期限の利益の喪失条項の概要と、業務委託契約書に期限の利益喪失条項を設ける意義について解説します。
期限の利益とは?
期限の利益とは、債務に一定の期限が設けられている場合、その期限まで債務を履行しなくていいという債務者側の利益のことです。
わかりやすくいえば、「猶予」ですね。
例を出すと、100万円を借りた場合、返済期限が半年後の場合、半年間は返済をしなくていいわけですから、この半年間の猶予が債務者側の利益ということになります。
期限の利益の喪失とは
期限の利益喪失とは、債務者側の猶予を喪失させることを意味します。
民法では期限の利益の喪失について以下のように規定しています。
第137条(期限の利益の喪失)
次に掲げる場合には、債務者は、期限の利益を主張することができない。
一 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。
二 債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき。
三 債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき。
破産したとき、債務者が担保を滅失、損傷、減少させたとき、担保を供する義務を履行しないとき、債務者は期限の利益を失います。
このような事態に陥ったとき、債務者側に期限の利益を認めると債権者が債権回収を図りにくくなるからです。
契約書に期限の利益喪失条項を設けていなくても、上記の3つの事由が発生すると債務者は必然的に期限の利益を喪失することになります。
業務委託契約において、期限の利益を受けるのは委託者側が多いです。
委託者は受託者に業務委託料を支払うという債務を背負っているので、期限の利益が喪失すると、委託者は直ちに委託料を支払わなければなりません。
期限の利益喪失条項を設けるメリット
あえて契約書に期限の利益喪失条項を設けるのは、言うまでもなく債権回収をスムーズに行うため。
先ほども説明したとおり、民法には期限の利益が喪失する事由を3つ規定していますが、契約書には、この3つ以外の事由が発生した場合にも期限の利益が喪失するように規定しておくのです。
例えば以下の事由が生じた場合、債権者側としては期限の利益が喪失する旨を規定しておきたいです。
(1) 本契約に一つにでも違反したとき
(2) 差押、仮差押、仮処分、強制執行、担保権の実行としての競売、租税滞納処分、その他これらに準じる手続きが開始されたとき
(3) 詐術その他背信的行為があったとき
(4) 信頼関係が破壊される重大な事由が生じたとき
上記の4つはわりかしよく設けられる期限の利益喪失条項です。
(1)の「本契約に一つでも違反したとき」は、とても便利で、これを規定しておくだけで相手に対する抑止力にもなります。
業務委託契約書に期限の利益喪失条項を設ける意義
期限の利益喪失条項は、債権者が債権を回収しやすくなるために設ける条項です。
先ほども説明したとおり、業務委託契約において期限の利益を受けるのは「委託料を支払う」という債務を背負っている委託者側であることが多いです。
なので、受託者側としては、期限の利益喪失条項を設けておくだけで、業務委託料の不払いや履行遅滞(期限までに報酬が支払われないこと)を防ぐことができるので、実務上メリットがとても大きいです。
受託者側が業務委託契約書のドラフトを作れる場合、ぜひともこの期限の利益喪失条項は入れておきたいところです。