雇用契約書とは会社と労働者の間で結ばれる雇用に関する契約書です。
雇用契約書を作成する際には労働関係法令を知っておかないと、気付かぬ間に法令違反になる雇用契約書を作成してしまうかもしれません。
本記事では契約書作成専門の行政書士が、雇用契約書に関する主な労働関係法令を解説します。
主な労働関係法令
雇用契約書を作成する際に留意すべき労働関係法令は以下です。
・労働基準法
・労働契約法
・労働組合法
・労働者災害補償保険法
・労働安全衛生法
・短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム労働法)
・最低賃金法
一つずつ解説します。
労働基準法
雇用契約で一番大事にしなければいけないのが労働基準法でしょう。
労働基準法は、以下の2つを主な目的としています。
・労働条件の最低基準の確保…労働者が人間らしい生活を送るための最低限の労働条件を定めている
・労働者の保護…弱い立場にある労働者を保護し、不当な扱いを受けないようにする
労働基準法には、以下の内容が定められています。
・労働時間
・賃金
・雇用契約…契約条件など
・労働災害…労働災害が発生した場合の事業者の責任や補償などの定め
・その他… 育児休業や介護休業など、労働者の権利に関する様々な規定
労働基準法は、すべての労働者に適用されるため、正社員だけでなく、パート社員やアルバイト社員も労働基準法に準じた雇用契約書を作成する必要があります。
雇用契約をする場合、労働条件の明示をしなければならず(第15条)、雇用契約書を作成する際には必ず明記してください。
具体的な明示事項は以下。
(1)労働契約の期間に関する事項
(2)期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
(3)就業の場所及び従業すべき業務に関する事項
(4)始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時点転換に関する事項
(5)賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金等を除く。)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
(6)退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
(7)退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払いの方法並びに退職手当の支払いの時期に関する事項
(8)臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及びこれらに準ずる賃金並びに最低賃金額に関する事項
(9)労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
(10)安全及び衛生に関する事項
(11)職業訓練に関する事項
(12)災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
(13)表彰及び制裁に関する事項
(14)休職に関する事項
(労働基準法施行規則第5条第1項)
労働基準法は雇用契約の骨子になるのでしっかり理解しておきましょう。
労働契約法
労働契約法は、労働基準法では定めきれなかった細かい契約に関することを定めた法律です。
労働契約法の主な内容は以下。
・労働契約の成立…労働契約は、労働者と使用者の合意によって成立する
・労働条件の明示
・労働契約の変更…労働契約の内容を変更する場合には、原則として労働者の同意が必要
・労働契約の終了…労働契約は、期間満了、解雇、退職などによって終了する
・その他…試用期間、懲戒、休業など、労働契約に関する様々な規定がある
注目すべき点としては、一度結んだ労働契約を変更する場合勝手に変更することはできず、原則労働者の同意が必要になるということです(第8条)。
労働者の同意を得ずに勝手に変更ができたら、対等な立場であるはずの雇用契約にゆがみが生じますからね。
なお、就業規則の変更は可能ですが、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件に変更することは原則できません(第9条)。
労働契約法は基本的に、労働基準法に準拠しているので、労働基準法の骨子を理解していればそう難しいことはないでしょう。
労働組合法
憲法第28条に労働組合に関する規定があります。
第二十八条
勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。
この憲法上の権利を具体的に保障するために、労働組合法が制定されました。
労働組合法は、以下の3つの権利を保障しています。
・団結権…労働者が労働組合を結成したり、加入したりする権利
・団体交渉権…労働組合が使用者と労働条件について交渉する権利
・団体行動権…労働組合がストライキなどの団体行動をする権利
これらの権利は、労働者が使用者と対等な立場で交渉し、労働条件の改善や経済的地位の向上を図るために重要な役割を果たします。
団結権、団体交渉権、団体行動権を認めないような雇用契約書は無効になるのでご注意ください。
なお、公務員は労働組合法の適用除外であるため、公務員は労働組合自体を結成することはできません。
労働者災害補償保険法
いわゆる「労災」についての法律。
労働者災害補償保険法は、業務災害や通勤災害によって労働者が負傷したり、病気になったり、死亡した場合に、労働者やその遺族に対して必要な保険給付を行う制度です。
労働者災害補償保険法の目的は以下の2つ。
・労働者の保護…業務災害や通勤災害によって労働者が負傷した場合に、迅速かつ適切な補償を行うことによって、労働者の生活の安定を図る
・社会復帰の促進…労働者が負傷や病気から回復し、社会復帰することを促進
雇用契約における注意点としては、通勤経路は労災の適用範囲にかかわるので、別途書類などで労働者の通勤経路を把握しておきましょう。
労働安全衛生法
労働安全衛生法は、労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境を作ることを目的とした法律です。
労働安全衛生法の目的は以下の2つ。
・労働災害の防止…労働災害を未然に防ぐために、事業者に様々な安全対策を義務付けている
・労働者の健康確保…労働者の健康を保持増進するために、健康診断の実施や作業環境の改善などを義務付けている
例えば、事業者は、労働者の作業行動から生ずる労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならず(第24条)、労働災害発生の急迫した危険があるときは、直ちに作業を中止して労働者を避難させなければならないなど(第25条)、労働者の安全を守るために最善を尽くさなければなりません。
高所での作業や危険な薬品を扱ったりするなど、労働者に一定の危険が伴う雇用契約を結ぶ場合は、労働者の安全に配慮するようにしてください。
短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム労働法)
いわゆるパートタイム労働法。
短時間労働者や有期雇用労働者の雇用管理を改善し、通常の労働者との間で不合理な待遇差をなくすことを目的とした法律です。
この法律のいう短時間労働者と有期雇用労働者の定義は以下です。
・短時間労働者…1週間の所定労働時間が、通常の労働者よりも短い労働者を指す
・有期雇用労働者…期間を定めて雇用される労働者を指す
パートタイム労働法で一番重要なのは、不合理な差別について。
代表的な例でいうと、同一労働同一賃金の概念でしょう。
同一労働同一賃金というのは、同一の労働をしているのに、短時間労働者と通常の労働者で格差を設けてはならないという趣旨です。
第8条にてそうした不合理な待遇を禁止しています。
第八条(不合理な待遇の禁止)
事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。
ちなみに私は某ファーストフードで長年アルバイトマネージャーをやっていました。
某ファーストフードのマネージャーはアルバイトとはいえ、やっていることは社員と一緒なのですが、賃金には大きな格差あり。
これは同一労働同一賃金の趣旨に反しますが、会社側の言い分は、「社員は転勤があるがアルバイトマネージャーは転勤がない」というもので、だから賃金に格差があるのはしょうがないというロジックでしたね。
会社側のロジックに法的な正当性があるのかは微妙ですが、ともかく同一の労働をさせているなら賃金も同一でなければいけないのが原則です。
最低賃金法
最低賃金を定める最低賃金法。
最低賃金法の趣旨は、賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もつて、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することです(第1条)。
当然一番大事な点は、事業主の属する県の最低賃金を上回る賃金を支払うことです(第4条)。
雇用契約を結ぶ際、労働基準法では明示事項に「賃金」が明示事項として定められているため、必ず最低賃金以上の額を明示するようにしてください。
まとめ
以上が雇用契約書を作成する際に留意すべき労働関係法令です。
ちなみに、業務委託契約においても、内容によっては労働者性が補強され、業務委託ではなく雇用と判断されてしまう可能性があることにご注意ください。
詳しくは下記記事参照。
参考: 業務委託契約が雇用契約とみなされないための注意点
ではでは。