法律の条文を読んでいると、「みなす」と「推定する」といった文言を見かけます。
どちらも意味は似ていそうですが、法律的な意味は大きく違います。
「みなす」と「推定する」の違い
「みなす」とは、事実のいかんに関係なく、そうであると断定することです。
「みなす」は反証を一切許さないので、「○○とみなす」という文言は、それ以外の反証が認められないといことになります。
例えばボンデージを身に纏った女王様に、「お前は豚だよ。なんでかって?あたしがそうみなしたからだよ」と言われ、「いや、私は人間・・・なんですけど」と力無く抗弁したところで、無意味です。なぜなら女王様がそうみなしたから。
こちらが反論したとて、「なんで豚が人間様の言葉を使ってるんだい?そんなお仕置きされたいのかこの豚野郎!」と言われるのが関の山。紳士なドMにはそれがご褒美なんでしょうが。ぶひぶひ。
知的レベルの低い冗談はともかく、例えば民法721条の胎児に関する規定では「みなす」が使われています。
民法第721条(損害賠償請求権に関する胎児の権利能力)
胎児は、損害賠償の請求権については、既に生まれたものとみなす。
胎児はまだ産まれていない状態なので、通常権利能力を有していません。
なぜなら、私権の享有は出生に始まるとされているからです(民法3条1項)。
まだ生まれてもいない者には権利が認められないのが大原則です。
そこで民法721条は、胎児を既に生まれたものとみなすことで、損害賠償請求権の行使を可能にしたのです。
みなすは反証を許さないので、相手方が「胎児に権利は認められない!」と抗弁しても無意味です。
対して「推定する」とは、ある事実をもとに他の事実を定めることです。
例えば、民法722条。
民法第772条(嫡出の推定)
妻が婚姻中に懐胎した子は、当該婚姻における夫の子と推定する。女が婚姻前に懐胎した子であって、婚姻が成立した後に生まれたものも、同様とする。
※一部省略
婚姻中という事実から、妊娠した子供を夫の子と推定するという内容です。
社会通念上、夫婦関係が構築されている状態で、妻が妊娠した場合、ほぼ夫の子でしょう。
そこで、法律ではそれを考慮し、婚姻中に妊娠した子は夫の子と推定すると定めているのです。
ここで重要なのは、夫側が「その子は俺の子じゃない」といった反証が可能な点です。
例えば、妻が浮気相手との子を妊娠し、それが法律上「旦那の子である」とみなされてしまってはどう考えても不公平でしょう。そんな法律の条文があったら、憲法14条で定める法の下の平等に反することになります。
ゆえに民法772条は、「みなす」ではなく「推定する」という文言を使い、夫側に反証する余地を与えているのです。
司法は悪女の排除にも余念がないようで、大変喜ばしい限り。
もっとも、悪女どころか普通の女にすら相手にされない私には全く無関係な法律ですがね(真顔)
おわりに
契約書を作成するとき、条項に「推定する」と書いた場合、相手に反証の余地を与えてしまうので、「推定する」を安易に使わない方がいいでしょう。
契約書はちょっとした言葉の使い方で、その法的効果が大きく変わってしまうので特に気をつけてください。