売買契約等で「契約不適合責任」の条項が置かれることがあります。
本記事ではこの契約不適合責任について解説します。
契約不適合責任とは?
契約不適合責任は、2020年4月1日の民法改正で誕生した概念です。
改正前は、瑕疵担保責任という概念でした。
契約不適合責任とは、物や権利を供給する契約で、供給された物や権利に不適合があった場合、供給者(売り手・請負人)が負う責任のことです。
契約の不適合とは具体的にいえば、供給された物の、種類、品質、数量が、あらかじめ決められていた内容と適合しないことです。
例えばりんご100個を売買する契約を結んだとして、実際に供給されたりんごは90個しかない上に一部が腐敗していた場合、これは契約の内容に適合してるとは言えません。
契約不適合で買主が請求できる4つの権利
契約の内容に適合しない場合、買主(あるいは請負人等)は、次の4つの権利を行使できます。
それが以下。
1. 履行の追完請求
2. 代金減額請求
3. 損害賠償請求
4. 解除権の行使
一つずつ解説します
1. 履行の追完請求
まず追完の定義から。
以下はgoo辞書による追完の定義です。
必要な要件を具備していないために効力を生じない法律上の行為が、のちに欠けている要件を備えて効力を生じること。
参考: https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E8%BF%BD%E5%AE%8C/
ややわかりにくいと思うので、シンプルな例で説明します。
りんご100個を引き渡す売買契約があったとして、実際は90個しか引き渡されなかったとします。
契約の内容に照らし数量が足りないため、そこで買主は契約不適合責任に基づき、履行の追完請求をすることができるのです(民法562条)。
買主は追完請求により、足りないりんご10個を引き渡すよう請求します。売主がこの請求に応じりんご10個を追加で引き渡し、これで無事りんご100個の売買契約が完了しました。
欠けている要件、すなわちりんごの売買契約の例では数量の要件が欠けていたということです。
また、売主は買主に負担を課するものではないときは、買主が請求した方法とは異なる方法で履行の追完をすることができます。
なお、これらの追完請求は、契約不適合の責任が買主にある場合は、請求することはできません。
2. 代金減額請求
買主が民法562条に基づき、相当の期間を定めて履行の追完の催告をしても、売主がその期間内に履行の追完をしない場合、買主は代金減額請求ができます(民法563条)。
減額できる額は契約不適合の度合いによります。
なので、基本的にいきなり代金減額請求はできず、まず履行の追完を催告しなければなりません。
一方、次の事由がある場合は催告を要せず代金減額請求が可能。
① 履行の追完が不能であるとき
② 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確にしたとき
③ 契約の性質、特定の日時や期間に履行しないと契約の意味をなさない場合、売主が履行の追完をせずにその期間が経過したとき(例えば、クリスマス商品を発注したのに、クリスマスまでにその商品が納品されない場合など)
④ 買主が催告しても履行の追完を受ける見込みが明らかにないとき
3. 損害賠償請求
契約不適合責任は、債務不履行責任と考えられているので、民法415条に基づき損害賠償請求をすることができます(民法564条)。
4. 解除権の行使
損害賠償請求と同様の理由で、解除権を行使することができます(民法564条)。
買主の請求権には期間制限がある
以上の4つの請求権には期間制限があります。
その期間を超過すると契約不適合があっても請求はできなくなります。
第566条(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)
売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。
種類・品質の不適合に限り、買主は1年以内にその旨を売主に通知しないと、請求権は失われます。
ただ、売主がその不適合を知っていた、あるいは重大な過失によって知らなかった場合は、期間が超過していても請求権は失われません。
他方、数量の不適合に関しては、期間制限がありません。
1年経過したあとでも追完請求は可能です。
商法の場合さらに厳しい期間制限がある
他方、商法ではこの期間制限が短縮されます。
以下条文。
第526条(買主による目的物の検査及び通知)
一 商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。
二 前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その不適合を理由とする履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。売買の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないことを直ちに発見することのできない場合において、買主が6箇月以内にその不適合を発見したときも、同様とする。
三 前項の規定は、売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことにつき売主が悪意であった場合には、適用しない。
まず、商人間の売買においては、買主は受領した目的物を検査する義務を負い、そこで不適合を発見した場合直ちにその旨を売主に通知しなければなりません。
この段階で不適合を発見できず、その後に見つかった不適合がある場合、受領時から6ヶ月以内にその旨を通知しなければ請求権を失います。
なので、事業者同士の取引の場合は、商法が適用されるのでご注意ください。
契約書に契約不適合責任条項を設ける場合
契約不適合責任は民法で規定されたものなので、特段契約書に明記しなくても、不適合が発生したら買主は請求権を行使することができます。
それでも改めて契約不適合責任の条項を設ける場合、買主と売主で次のケースが考えられます。
買主有利
契約不適合責任の請求期間を1年ではなく、5年にするなどの条項。
(期間延長条項)
売主有利
本契約においては契約不適合責任を負わないことにする条項。
(契約不適合責任排除条項)
契約書のレビューをする上においても、自身に不利な契約不適合責任条項があるかどうかは確認しておいたほうがいいでしょう。
おわりに
契約不適合責任は買主の権利を守る重要な民法のルールです。
契約書を作成する場合はしっかり理解しておくべきでしょう。
当行政書士事務所では、契約書作成、または契約書のリーガルチェック業務を行なっておりますで、契約書関係でお悩みの方はお気軽にご相談ください。