賃貸借契約にてマンションを借りて数年後、突然管理会社から、「家賃の値上げ」の通知が届くことがあります。
果たして家賃の値上げには応じなければいけないのでしょうか。もし値上げに応じなければ退去しなければいけないのか。

契約書作成専門の行政書士がこの家賃増額について解説します。

家賃の値上げには一定の条件が必要

結論、家賃の値上げは可能ですが、値上げするには借地借家法が定める一定の条件があります。
その条件が以下。

・ 建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったとき
・ 一定期間賃料を増額しない旨の特約がないこと

簡単に言えば、「周辺の家賃相場が上がってるからうちも家賃あげるよ」、「建物の固定資産税も上がっちゃったからそれに合わせて家賃上げるよ」というのが、家賃を上げる正当事由になり得るということです。

実際、東京地方裁判所平成26年6月30日判決の裁判例では、平成18年から平成24年の間に固定資産税及び都市計画税が13万7000円から16万2300円に上がってることを根拠に、月額家賃15万8000円の家賃が19万円に増額することを認める判決が下されています。
参考: https://www.shinginza.com/db/01751.html

そして、当たり前ですが、賃貸借契約書に一定期間賃料を増額しない旨の特約がないことも家賃値上げの条件の一つです。

例えば私も現在賃貸ですが、自分が契約した賃貸借契約書を読むと次のような条項がありました。

甲及び乙は次の各号のいずれかに該当する場合には契約期間中であっても甲乙協議の上、賃料を改定することができる。
(1)土地または建物に対する租税その他の負担の増減により賃料が不相当となった場合
(2)近傍同種の建物の賃料に比較して賃料が不相当となった場合

上記の条項があるために、仮に私が住んでる家の固定資産税が跳ね上がった場合家賃増額請求が行われる可能性が無きにしも非ずです。

おそらくほとんどの賃貸借契約では私のように、家賃増額を示唆する条項が入ってるはずです。

「なら家賃の値上げを打診されたら必ず応じなきゃいけないってこと!?」と不安になる方も多いと思うので、次項でその点について解説します。

家賃の値上げに必ず応じなければいけないわけではない

賃貸借契約は、「契約」である以上、賃借人(家を借りてる人)の意見を無視して、無理やり家賃の値上げを強行することはできません。

借地借家法は、あくまで賃料の増減請求ができるという請求権を保証しているだけであり、その請求を受け入れるかどうかは相手次第ということになります(借地借家法第32条)。

そして、先ほども説明したとおり、家賃の値上げを正当化するためには、相応の根拠が必要になります。

「賃貸経営が大変だから家賃を値上げしたい」などは家賃値上げの理由にはならず、借地借家法が規定するように、「建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったとき」でないと簡単に家賃を値上げすることはできないのです。

賃貸人が明確な根拠を持って家賃の値上げを請求してきたら、まず相手方と話し合いの場を持ちましょう。
そこでお互いに妥協点を探るわけですが、交渉が決裂したら司法に委ねることになります。

いずれにせよ、家賃の値上げを提案されたからといって、必ずしも値上げに応じなければいけないわけではないのです。

交渉が決裂したらまずは調停、最後は裁判で決する

司法は、賃料増額請求については調停前置主義をとっています。
調停前置主義とは、裁判の前にまずは調停を申し立てて、当事者の話し合いによる解決を目指すルールのことです。

なので、家賃の値上げ交渉が決裂したからといって、いきなり裁判ではなく、まずは調停をすることになります。

調停とは、中立な第三者である調停委員が間に入り、当事者同士の合意を目指すものであり、そこでも両者合意に至らなかった場合初めて裁判となるわけです。

裁判となれば費用も時間もかかるので双方にとって負担が重い。
なので、できれば裁判は避け交渉でなんとか解決を図るのが賢明でしょう。

家賃を値上げされたらどう交渉すればいいの?

まず賃貸人の家賃値上げの根拠を聞きましょう。
相手に家賃値上げを肯定できる相応の根拠がないなら、家賃値上げを拒否できる可能性があります。

逆に家賃値上げを肯定できる強固な根拠がある場合、家賃値上げの完全拒否は難しいかもしれません。

そこでお互いの妥協点を探ることになるわけですが、考えられる妥協点は以下。

1. 家賃の値上げ自体は受け入れるが、値上げ幅を調整する。(例えば、家賃5000円の値上げを要求されているなら、3500円程度にならないかと提案する)
2. 家賃値上げの期間を先延ばしにする。(例えば、次回更新時に家賃の値上げを承諾するなど)

私個人の考えとしては、上記の案は結構な率で認められるかと思います。

なぜなら、賃貸業をやってる人なら誰もが家賃の値上げを決行するのが簡単ではないと知っており、交渉が決裂すれば裁判となり膨大な時間とお金がかかるわけで、ならばある程度の譲歩は止む無しと考えるのが合理的だからです。

交渉に失敗したらいきなり退去させられるか?

結論、家賃の値上げ交渉に失敗してもいきなり強制退去になることはありません。
日本の法律は居住権をとても大切にしているため、賃借人は手厚く守られているのです。

その代わり家賃はしっかり払ってください。
家賃を払わないと法的には債務不履行となり、契約解除の原因になり退去させられる可能性が出ています。

ここで払う家賃というのは、値上げされた家賃ではなく従来の家賃で大丈夫です。
相手が仮に家賃を受け取ってくれない場合は、供託制度を使い、供託所に家賃相当額を供託してください。
供託すれば、法律上債務不履行にはなりません。

おわりに

日本は長い間デフレでしたが、ようやくデフレが終焉を迎えてインフレになりました。
インフレになれば不動産価格が上がるのが市場原理なので、今後は各所で賃料増額請求の小競り合いが始まりそうな予感です(特に都心に住んでる人は)。

もし今あなたが住んでる家で家賃の値上げを請求されたら、まずは相手と交渉して妥協点を探ってみてください。
ではでは。