清掃業務にはいろいろな種類があります。
マンション清掃、ビル清掃、民泊清掃。
清掃業務は雇用ではなく、業務委託契約で締結されることが多い仕事でもあります。
というわけで今回は、清掃業務の業務委託契約書の作成方法や注意点を解説します。
今回は便宜上「民泊清掃」の業務委託を例に解説します。
民泊清掃の業務委託契約書で定めるべき条項
民泊清掃の業務委託契約で最低限定めるべき条項は以下。
・ 業務内容(どういう業務なのか)
・ 善管注意義務
・ 委託料
・ 報告義務
・ 秘密保持契約
・ 有効期間
・ 契約解除
・ 損害賠償
・ 不可抗力免責
・ 再委託の可否
・ 協議解決
・ 合意管轄
順を追って説明します。
業務内容(委託内容の明確化)
全ての業務委託契約に言えることですが、どういう業務を委託するのかを記するのは極めて大事です。
なぜなら、正確に業務内容を規定しないと、「その業務は契約で規定されていないのでできません」と言われかねず、無用なトラブルの元になるからです。
民泊清掃の業務委託契約においては以下のように、できるだけ細かく業務内容を規定するといいでしょう。
第○条(業務内容)
甲は乙に対して、次に定める業務(以下、「本件業務」)という)を委託し、乙はこれを受諾する。
(1) 民泊施設の清掃業務(雑巾掛け、掃除機、消臭、ゴミの排出、食器等の洗浄、玄関たたきの掃き掃除等)
(2) 民泊施設の消耗品・物品の補充
(3) 物品・家具等の設置業務
(4) 郵便物の受け取り等
(5) これらに付随する一切の業務
※甲が委託者、乙が受託者です。
基本的な民泊清掃の業務をあらかた列挙し、「これらに付随する一切の業務」と付け加えることにより、列挙した事項以外もある程度対応できるよう規定しています。
以上のように委託内容はできるだけ具体的かつ細かく列挙することをおすすめします。
善管注意義務
業務委託契約は「請負」か「委任(準委任)」のどちらかに分かれます。
そして「委任契約」に該当すると受任者(業務をする人)は、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負います(民法644条)。
これを略して善管注意義務といいます。
善管注意義務とは、取引において社会通念上要求される注意義務のことで、ざっくり言えば気をつけて業務を遂行しようね、という意味合いです。
今回の民泊清掃業務はどちらかといえば請負に近い性質を持つので、善管注意義務を規定する必要もないですが、誠実に業務を遂行してもらうことを期待して補足的に設けています。
条項の文例は以下の通り。
第○条(善管注意義務)
乙は、甲の指示に従い、善良なる管理者の注意をもって本件業務を行い、甲の信用を傷つける行為その他不信用な行為を一切行わない。
委託料
業務委託料について。お金の取り決めなのである意味一番大事。
条項の文例は以下のとおり。
第○条(委託料)
1. 本件業務の委託料は次のとおりとする。
(1) 清掃業務 ○○○○円
(2) その他付随業務 取引毎に個別に甲が金額を掲示し乙が承諾した額
2. 本件業務に要する費用は乙の負担とするが、甲の指示により業務を行い費用が発生した場合、乙が領収証等の経費金額を証明する書類を甲に提出をした場合、甲は乙に経費を支払う。
3. 甲は、乙に、本件業務実施期間の翌月末日までに当月の委託料を乙が指定する口座に振り込む方法により支払う。振込手数料は甲の負担とする。
清掃業務のの基本的な委託料、個別の案件についての取り決めを規定しています。
そして、大事なのが振込手数料について。
報酬振込時の手数料をどちらが負担するかの記載がないと、後に紛争に発展する可能性があるのでマストで記載するようにしましょう。
報告義務
委任契約においては、受任者(業務を遂行する人)は、委任者(業務を委託する人)から請求があったときは、業務の遂行状況について遅滞なく報告する義務があります。
先ほども書いたとおり、清掃業務委託契約は請負の性質が強いですが、委託者側としては適時業務の遂行状況を確認できた方がいいので、今回の民泊清掃の業務委託契約でも報告義務条項を設けています。
条項の文例は以下。
第○条(報告)
乙は、本件業務の履行の状況に対して、甲から請求があったときには、その状況につき直ちに報告をしなければならない。
秘密保持
業務委託契約に限らず多くの契約書に設けられている秘密保持条項です。
条項は以下のとおり。
第○条(秘密保持)
- 甲および乙は、相手方から開示を受け、かつ開示の際に秘密である旨を明示した技術上または営業上の情報、本契約の存在および内容その他一切の情報(以下、「秘密情報」という。)を、相手方の事前の書面による承諾を得ないで第三者に開示または漏えいしてはならず、本契約の遂行のためにのみ使用するものとし、他の目的に使用してはならないものとする。
- 前項の規定にかかわらず、情報を受領した者(以下「被開示者」という。)は、自己または関係会社の役職員もしくは弁護士、会計士または税理士等法律に基づき守秘義務を負う者に対して秘密情報を開示することが必要であると合理的に判断される場合には、前項と同様の義務を負わせることを条件に、被開示者の責任において必要最小限の範囲に限って秘密情報をそれらの者に対し開示することができる。
また、法令に基づき行政官庁、裁判所から開示を求められた秘密情報についても、当該要請があった旨を遅滞なく相手方に書面にて通知を行った場合には、必要最小限の範囲で開示することができる。- 被開示者が次の各号の情報に該当することを証明できる場合には、当該情報は秘密情報の対象外とする。
⑴ 開示の時、既に公知であった情報または既に被開示者が保有していた情報
⑵ 開示後、被開示者の責めに帰すべき事由によらないで公知となった情報
⑶ 開示する権利を有する第三者から秘密保持義務を負うことなく適法に入手した情報
⑷ 被開示者が開示を受けた情報によらずに独自に開発・取得した情報
⑸ 開示者が秘密保持義務を課することなく第三者に開示した開示者の情報- 本条は、本契約終了後も3年間は引き続き効力を有するものとする。
今回の民泊清掃業務委託に関していえば、清掃員が民泊運営の機密事項などを外部に開示して、委託者が経営上にダメージを受ける可能性を排除するために秘密保持を設けました。
4項に関しては、「残存条項」と呼ばれるもので、契約が終了しても一定期間秘密保持義務が課される旨を来てしています。
もっとも、残存条項は両者にとって負担にもなるので、必要なければあえて規定する必要はありません。
有効期間
業務委託契約の有効期間を規定しています。条項は以下のとおり。
第○条(有効期間)
本契約の有効期間は、令和○年○月○日から令和○年○月○日までとする。ただし、期間満了日の1ヶ月前までにいずれの当事者からも更新拒絶する旨の意思表示なき場合、同一内容で1年間更新されるものとし、以後も同様とする。
契約の有効期間と、自動で契約が更新される旨を設定しています。
極めて一般的によく使われる内容です。
契約解除
民法の原則では、契約を解除する場合一定の要件があります。
相手が債務を履行しない場合(業務委託契約においては、相手が支払いをしない、あるいは業務を遂行しない等)、相当の期間を定めてその履行の催促をし、その期間内に履行がないときに契約を解除することができます(民法541条)。
これが催告解除。
対して無催告解除、つまり催告を要することなく解除することができる要件が民法542条に規定されています。
第542条【催告によらない解除】
① 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。
一 債務の全部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
四 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
五 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。
② 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の一部の解除をすることができる。
一 債務の一部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
しかし、契約実務上ではこれ以外でも無催告解除を規定しておきたい場合があります。
そこで以下のような無催告解除条項が考えられます。
第7条(解除)
- 甲及び乙は、相手方が各号のいずれか一つに該当したときは、催告その他の手続きを要しないで、直ちに本契約を解除することができる。
(1) 本契約に定められた条項に違反したとき
(2) 支払停止若しくは支払不能の状態に陥ったとき
(3) 資産又は信用状態に重大な変化が生じ、本契約に基づく債務の履行が困難になるおそれがあると認められるとき
(4) 相手方に対する詐術その他の背信的行為があったとき
(5) 本契約または個別契約に基づく債務を履行せず、あるいは本契約又は個別契約に違反し、相当の期間を定めて催告したにもかかわらず、なお当該不履行あるいは違反が是正されないとき
(6) その他本契約を継続し難い重大な事由が生じたとき
こうすることで解除事由の幅が広がるため、解除しやすくなります。
損害賠償
第○条(損害賠償)
甲及び乙は、本契約に違反することにより、相手方に損害を与えたときは、相手方に対し、その損害の全て(弁護士費用を含む)を賠償しなければならない。
相手方の行動により損害が発生した場合損害賠償請求ができる条項。
損害賠償条項は、業務委託契約に限らず様々な契約書で利用されている条項です。
民法では損害賠償について以下のように規定されています。
第709条【不法行為による損害賠償】
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
損害賠償条項は相手を牽制する効果もあるので必ず設けておいた方がいいでしょう。
不可抗力免責
おおよそ当事者が想定できない事象が発生した場合、債務不履行の責任が免責される規定です。
例えば地震などの天災が襲ってきた場合、民泊の清掃をしている場合ではありません。
にもかかわらず清掃をしなかったことによって損害賠償請求されてしまったら、たまったものではありません。
そうした不可抗力による免責規定を置いておくのです。条項例は以下。
第9条(不可抗力免責)
天変地異、戦争・暴動・内乱、法令の制定・改廃、公権力による命令・処分、ストライキ等の争議行為、輸送機関の事故、その他不可抗力による本契約に基づく債務の履行遅滞又は債務不履行が生じた場合は、いずれの当事者もその責任を負わない。ただし、金銭債務を除く。
通常考えられる不可抗力事由を例示しています。
また、コロナ以降は感染症も不可抗力事由として列挙している契約書も見かけます。必要とあらば感染症も追加しましょう。
再委託の可否
委任契約の場合、委任者の許諾を得るか、やむを得ない事由があるときでないと再委託はできません(民法644条の2)。
一方、請負契約は再委託の制限はなく、受託者は自由に業務の再委託が可能となります。
前述したとおり、清掃業務委託は請負契約の性質が強いため、再委託は自由にできるという解釈が成り立ってしまいます。
しかし、そうなると委託者は信用できない相手に再委託されてしまうという不安が残ります。
そこで再委託は委託者が承諾したら認めるという条項を設けておくのです。
第○条(再委託の禁止)
乙は、本件業務の全部又は一部を第三者に再委託することができない。ただし、甲及び乙が協議の上、甲が承諾した場合には、この限りではない。
再委託を制限する条項は非常に多くの業務委託契約で設けらています。
実際、私が昔やっていたレンタルスペース清掃の業務委託契約でも、やはり再委託を制限する条項が設けられていました。
それだけ委託者にとって再委託の可否は重要なのです。
協議解決
第11条(協議解決)
本契約に定めがない事項及び本契約の内容に疑義が生じた事項については、両当事者間で誠実に協議の上、これを解決するものとする。
ほとんどの契約書に設けられいるお約束のような条項です。
協議解決を定めて法的には特に意味がないですが、半ば儀礼的に盛り込むことが多いです。
合意管轄
管轄とは、当事間で民事裁判を行う場合、どこの裁判所で行うかのこと。
その裁判所を合意で決めておけば実務上メリットが大きいです。
というのも、当事者の合意がない場合、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所で裁判を行うことになります。仮に被告の所在地が遠く離れた場所の場合、こちらとしてはかなり面倒。
そこで、自分の所在地から近い裁判所を合意管轄にしておくのです。
第○条
本契約に関して生じた紛争については、甲の本店所在地を管轄する地方裁判所を、第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
この合意管轄条項も多くの契約書で利用されています。
おわりに
以上が民泊清掃の業務委託契約で最低限設けるべき条項でした。
ただ、契約というのは契約内容によって臨機応変に変えていかねばなりません。
同じ民泊清掃の業務委託契約であっても、業務内容や、委託者や受託者の意図によって、必要になる条項、あるいは不要な条項は変わってきます。
なので、本記事の情報を参考にするのはかまわないですが、あくまで参考程度に留め、全てコピペして使うのはおすすめしません。
契約書は、その契約ごとにオーダーメイドで作成するのが一番です。
当行政書士事務所は業務委託契約書を3,3000円で作成いたしますので、必要な方は是非ともご依頼お待ちしております。